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2017年6月 7日 (水)

博物館施設で資料の保存は誰が行うのか

NHKは博物館や美術館が保管する文化財がどの程度しっかりと管理されているかどうかを調べるために、国立と都道府県立、そして政令指定都市が設けた博物館や美術館など、245の施設に対して質問用紙を送り、76%に当たる186施設から回答を得た。(下記のアドレスからアクセス)

https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_0519.html

NHK から発送されたアンケートは三百館弱の施設で、その内の7割なので日本にある施設全体の数量から見れば極めて小さい数字です。しかし、もしも7割と言う割合が五千館とも言われる全国の施設の実態を示すとすれば、大変な状況で、危機的状態を とうに過ぎていると言っても過言ではないでしょう。

学芸員の仕事は多岐にわたっていますが、その中で保存という専門分野について、モノとしての最低状況判断を付けられる学芸員がどれくらいわが国にいるのでしょうか。また、日本以外ではどこの国にそのような学芸員がいるのでしょうか。仮にいたとして、その方々はどのような教育を受けているのでしょうか。

日本では、学芸員資格取得のための大学教育のカリキュラムの中で博物館資料保存論という勉強が義務付けられ、就職後は東京文化財研究所が実施する保存担当学芸員研修、あるいは文化庁の研修とかを通じて、保存の専門家の代わりに学芸員がその能力を身につけさせられていますが、実際上どの程度の効果があるのでしょうか。

日本ではいくつかの大学で保存修復コースが設置されていますが、それらの中でいくつかの大学は撤退を始めています。どんなに保存修復を専門的に勉強しても、いざ就職となると美術史や考古学、歴史学を専門とする人達がほどんど採用され、保存専攻の学生は就職先にほとんど繋がらないという現状では、大学としても持ちきれないでしょう。

学芸員は仕事と責任の増大で、保存について十分な対応ができかねる状況もある中、大学で教育を受けた保存修復の専門家の卵は行き先がほとんどなく、挙げ句の果てに大学がこの分野の教育から撤退し始める。何ともやるせない矛盾が生じているのです。

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