« 2016年7月 | トップページ | 2016年9月 »

2016年8月

2016年8月 3日 (水)

気になる熱放射型冷暖房装置

岩手県八幡平市にあるピーエス工業のIDICを訪ねた。今から20年近く前から気になって仕方がない空調について実体験をするためだ。

ショールームと工場を兼ねた建物の中は極めて快適。建物の前には広葉樹が茂っているお陰で、窓から差し込む光は木漏れ日。その分、建物内部の温度上昇は抑えられている。冬は葉が落ちるために、日が差し込んでその分暖かくなる。

R0015551

R0015552

R0015553

オフィスの中にはバナナ、ハイビスカスなどの南方系から、詳しい名前はわからないがスプルスに似た北方系まで、多様な植物が生き生きと育っている。ハイビスカスはオフィスの気候に順応した結果、毎年2月ごろに開花するという。

建物の中は風のない無風の状態で、部屋全体が軽く冷えている。洞窟やムロの中で感じるひんやりとした空気感と同じである。換気のために窓の一部がわざと開けてあるが、暑い外気の影響は感じられない。

R0015556

R0015554

R0015555

室内の温度調整は、暖房器具のオイルヒータなどで見かける羽が何枚も連なったラジエターに冷水を循環させ、そこから出てくる冷たい輻射熱で建物内部を冷やす。その時にラジエターの表面は結露して水が垂れるため、ラジエターの下には雨樋状の結露水受けがある。結露によって空気中に含まれる湿気も取り除かれる。

この冷たい輻射熱によって室内は洞窟や地下室、あるいはムロに入ったかのようにひんやりとした環境になる。通常のエアコンが冷たい空気を部屋中に拡散させる代わりに、冷たい輻射熱を部屋中に静かに伝えるのが本装置の特徴である。例えて言うなら、氷の塊が部屋の中にあるような状態である。

風がないので、部屋の中は極めて静か。最近はワインセラーにもこの方式を使う例が増えているとか。ワインセラーはもともと古いお城の地下室のような場所なので、同じような環境をつくることができるという訳だ。

敷地内には装置を家庭生活で実感できるようにと、ゲストハウスが用意されている。

R0015559

R0015557

R0015558

ゲストハウスには数台の装置が設置されていて、丁度間仕切り用のレースのような感じにも見え、オシャレだ。

台所のパントリーにもこの装置が設えられ、ワインや野菜が適温下で保管されている。野菜は、風のない冷たい環境下で保管されると、普通の冷蔵庫の野菜室の中でよりもずっと長持ちするそうだ。

R0015560

循環する水を冷やすために汲み上げられた地下水は、使用後地上の小川を伝って再び地中に戻される。

冬はラジエターを循環する水を温めるのので、暖かな熱がラジエターから放射されることになる。

このように、年間を通じてこの装置を稼働させることによって、室内の気温の較差を小さくなり、マイルドな温度環境になる。冷やした空気、あるいは温めた空気を送風する従来の冷暖房よりもエネルギー使用量もかなり小さくなるそうだ。

オフィス内にはピアノがあり、時々はコンサートも開催されるとか。窓の前に広がる森、森の空気に包まれたような室内、そんな中で静かに演奏を聴いてみたいものだ。

R0015566

R0015563

« 2016年7月 | トップページ | 2016年9月 »

2021年11月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
無料ブログはココログ

気になる1冊

  • ★井川 聡: 『超高層から茅葺へ』
    海鳥社 2012 日本設計の池田武邦さんがハウステンボスの設計にかけた情熱とその源泉について、ドキュメンタリー的に記されている。茅葺に興味があったので手に取ってみたが、ハウステンボスの設計思想とその実態について初めて知ることが多く、ぜひ一度行ってみたくなった。
  • ★ヨースタイン・ゴルデル著 猪苗代永徳訳: 『オレンジガール』
    命のバトンタッチの意味。
  • ★籔内佐斗司: 『壊れた仏像の声を聴く 文化財の保存と修復』
    一緒に仕事をする機会には恵まれませんが、いつも気になっている方が仏像と修理について書き下ろした本です。
  • ★バージニア・リー・バートン 著 まなべ まこと 監修 いしいももこ訳: 『せいめいのれきし』 改訂版
    恐竜研究の第一人者・真鍋真氏が監修した絵本。絵本と言ってもかなり高度な内容です。生命のバトンタッチを分かりやすく描いたもの。
  • ★日本博物館協会 (編集): 『博物館資料取扱いガイドブック-文化財、美術品等梱包・輸送の手引き-』
    美術品梱包輸送技能取得士認定試験の制度が始まって4年が経ちます。認定試験を受ける人のための教科書であるとともに、美術品の展示、輸送に携わる人々にもとても役立つ本です。
  • ★ケヴィン・ヘンクス著 多賀京子訳: 『マリーを守りながら』
    自分にも娘がいるが、少女のころの彼女の気持ちを理解、解りあえることは難しかった。父親と幼い娘の間の気持ちの揺らぎを描いた作品。
  • ★藤沢修平: 『三屋清左衛門残日記』
    60歳で定年後、特任研究員として再雇用された時、これから先の時間を如何に過ごすか想像できなかったとき、ご隠居という言葉を理解しようと思って読んだ本。
  • ★ローズマリ・サトクリフ著 灰島かり訳: 『ケルトの白馬』
    イギリスの山肌に描かれた巨大な白馬の絵。その起源を求めて太古の物語にヒントを得て描かれた本。敵に滅ぼされた部族に生き残ったわずかな人々が新天地に旅立っても、彼らの先祖が馬乗りの名手であったことを地上に永遠に刻み込むために、敵方のために描いた白馬。
  • ★K.M.ベイトン著 山内智恵子訳: 『駆けぬけて、テッサ』
    血統には恵まれてはいるが、視力に問題を抱えたサラブレッド・ピエロとともに、自分の道を懸命に探し続ける少女テッサが苦難を後超えて、グランドナショナルで勝利をつかむ物語。馬の心理描写が素晴らしかった。
  • ★夢枕獏: 『大江戸恐龍伝』
    真友の立原位貫さんが装幀と各巻扉絵を描いています。