気になる熱放射型冷暖房装置
岩手県八幡平市にあるピーエス工業のIDICを訪ねた。今から20年近く前から気になって仕方がない空調について実体験をするためだ。
ショールームと工場を兼ねた建物の中は極めて快適。建物の前には広葉樹が茂っているお陰で、窓から差し込む光は木漏れ日。その分、建物内部の温度上昇は抑えられている。冬は葉が落ちるために、日が差し込んでその分暖かくなる。
オフィスの中にはバナナ、ハイビスカスなどの南方系から、詳しい名前はわからないがスプルスに似た北方系まで、多様な植物が生き生きと育っている。ハイビスカスはオフィスの気候に順応した結果、毎年2月ごろに開花するという。
建物の中は風のない無風の状態で、部屋全体が軽く冷えている。洞窟やムロの中で感じるひんやりとした空気感と同じである。換気のために窓の一部がわざと開けてあるが、暑い外気の影響は感じられない。

室内の温度調整は、暖房器具のオイルヒータなどで見かける羽が何枚も連なったラジエターに冷水を循環させ、そこから出てくる冷たい輻射熱で建物内部を冷やす。その時にラジエターの表面は結露して水が垂れるため、ラジエターの下には雨樋状の結露水受けがある。結露によって空気中に含まれる湿気も取り除かれる。
この冷たい輻射熱によって室内は洞窟や地下室、あるいはムロに入ったかのようにひんやりとした環境になる。通常のエアコンが冷たい空気を部屋中に拡散させる代わりに、冷たい輻射熱を部屋中に静かに伝えるのが本装置の特徴である。例えて言うなら、氷の塊が部屋の中にあるような状態である。
風がないので、部屋の中は極めて静か。最近はワインセラーにもこの方式を使う例が増えているとか。ワインセラーはもともと古いお城の地下室のような場所なので、同じような環境をつくることができるという訳だ。
敷地内には装置を家庭生活で実感できるようにと、ゲストハウスが用意されている。
ゲストハウスには数台の装置が設置されていて、丁度間仕切り用のレースのような感じにも見え、オシャレだ。
台所のパントリーにもこの装置が設えられ、ワインや野菜が適温下で保管されている。野菜は、風のない冷たい環境下で保管されると、普通の冷蔵庫の野菜室の中でよりもずっと長持ちするそうだ。
循環する水を冷やすために汲み上げられた地下水は、使用後地上の小川を伝って再び地中に戻される。
冬はラジエターを循環する水を温めるのので、暖かな熱がラジエターから放射されることになる。
このように、年間を通じてこの装置を稼働させることによって、室内の気温の較差を小さくなり、マイルドな温度環境になる。冷やした空気、あるいは温めた空気を送風する従来の冷暖房よりもエネルギー使用量もかなり小さくなるそうだ。
オフィス内にはピアノがあり、時々はコンサートも開催されるとか。窓の前に広がる森、森の空気に包まれたような室内、そんな中で静かに演奏を聴いてみたいものだ。
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