日本刀剣の敵は錆-鞘のはたらき-
日本刀剣は刀身の他に、帯びる際に使用する外装を刀装あるいは拵(こしらえ)と呼び、鍔(つば)、三所物と呼ばれる小柄(こづか)、笄(こうがい)、目貫(めぬき)などからなる。
博物館で保管するときには刀身と刀装具とは分けて保管することが一般的で、展示する場合も刀身と刀装具はそれぞれで行われることが多い。
保管中の刀身は本来の刀装具としての鞘から保管専用の白鞘(しらさや)に移す。別名は「休め鞘」。白鞘はホウノキを2枚張り合わせて作り、接着剤としてはご飯粒をすりつぶして作るソクイを使用する。
刀身の手入れを終えると白鞘に納めて収納棚に保管する。ただし、手入れの際に小さな錆が見付かった時には、白鞘の修理も合わせて行うことになる。
刀身は、白鞘の中で根元のハバキと呼ばれる部分と先端部の切先の部分だけが木と接触している。しかし、白鞘が変形すると刀身の他の部分も白鞘の内側と接触して、そこから錆が発生する。だから、手入れの過程で錆が見付かると、同時に白鞘の修理も行うことになる。
先ほど説明したようにソクイで接着された白鞘は比較的容易に割ることが出来て、刀身の錆の箇所に合わせて白鞘の内側を削り直す。こうした作業を割り鞘と言う。鞘の修理が終わり、刀身の研ぎ継ぎ、油の塗布が完了すると、初めて鞘に納められて、一連の手入れが完了する。これこそが、錆から鉄の刀身を守って来た基本中の基本の作業である。まさに、早期発見と早期治癒、予防保存そのものと言われる所以である。
臨床保存学はこのような実績に裏付けられた伝統を理解し、その本質をその他の多くの文化財に適用する実学である。
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所持している日本刀の曇りが気になり何か良い方法はないかと試行錯誤していたところ、日本刀剣の
敵は錆、鞘のはたらきを読ませていただきました。
そこで、私も刀を1振り所持していますが、僅かながら気になる錆が見受けられます、寄って、
研ぎ継ぎ及び白鞘の割方等お教え願いたいと思いお問い合わせする次第です。
宜しくお願い致します。
素人では無理でしょうか。
投稿: 福永正憲 | 2018年3月17日 (土) 17時36分
所持している日本刀の曇りが気になり何か良い方法はないかと試行錯誤していたところ、日本刀剣の敵は錆、鞘のはたらきを読ませていただきました。
そこで、私も刀を1振り所持していますが、僅かながら気になる錆が見受けられます、寄って、
研ぎ継ぎ及び白鞘の割方等お教え願いたいと思いお問い合わせする次第です。
宜しくお願い致します。
素人では無理でしょうか。
投稿: 福永正憲 | 2018年3月17日 (土) 17時39分
所持している日本刀の曇りが気になり何か良い方法はないかと試行錯誤していたところ、日本刀剣の敵は錆、鞘のはたらきを読ませていただきました。
そこで、私も刀を1振り所持していますが、僅かながら気になる錆が見受けられます、寄って、
研ぎ継ぎ及び白鞘の割方等お教え願いたいと思いお問い合わせする次第です。
宜しくお願い致します。
素人では無理でしょうか。
投稿: 福永正憲 | 2018年3月17日 (土) 17時40分
ごくごく狭い空間内での白鞘と刀身の当たりが錆び発生の原因の一つになりますので、その調整には相当な技術が必要だと思います。また、研ぎ継ぎも部分だけ研いで錆を落とし、最終的に周りの研いでいない状態に完璧に合わせる技術ですので、最高水準の技能が必要です。福永様のご経歴や技術水準を存じ上げませんので、ご自身でなさるべきかどうかについては判断できませんが、自信がないようでしたら専門家にお願いされた方が宜しいですし、現在お持ちの刀剣を実験台にして一連の作業を行ってもよいという考えでしたら、ご自身でされるのもあり得るかと思います。ただし、少なくとも始める前に技術者から手ほどきを受けて行うのが常道だと思います。
投稿: 神庭信幸 | 2018年3月18日 (日) 08時46分