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2011年7月 3日 (日)

岩手県立博物館の活動が未来を変える

岩手県立博物館に赤沼英男さんという保存の専門家がいます。だいぶ以前からの知り合いで、何かあると時々顔を合わせたり、連絡を取ったりする間柄です。日本の博物館に、収蔵品の保存を日常的に行う専門家を抱える館が少ない中で、岩手県博は古くから正職員として保存の専門家を配置する現在の体制を維持してきました。

10数年以上も前のこと、冬の博物館に赤沼さんを訪ねたことがあります。レストランの大きな窓から正面に岩手山を望む博物館は、冬になると入館者がぐっと減るため、一部展示施設を閉じて、そこで夏に出来なかったいろいろな作業を行うんですよと、説明を受けた記憶があります。季節とともに仕事の内容も変わる、自然と一体となったいいところだな、と感じました。

3月11日以降、県下の被災文化財のレスキューとその後の安定化処置の陣頭指揮に立ったのが、この岩手県博です。さまざまな資料の取り扱いに長けた学芸員、それらの保存に詳しい保存専門家、彼らが見事なチームプレーで、文化財をレスキューして行きました。

当然彼らだけの手では足りるはずもありません。遺体捜索に合わせて、自衛隊に瓦礫と一緒に文化財を運んでもらいました。直ぐにボランティアの受け入れをしました。また、必要な機材や資材も足りません。直ぐに各所に支援の要請を出しました。総てがその時々に必要なものばかりです。メッセージを発するには正確な状況判断が必要ですが、文化財保存の専門家が日ごろから活動することによって、迅速に判断が行えたのだろうと思います。

海水に濡れた文書史料は乾燥させるまでの間、腐らないように冷凍保存しておきます。大量の文書を入れる冷凍庫は普通は市場にしかありません。岩手県博は直ぐに大型冷凍庫の必要性を発信しました。それに全国知事会が反応し、最終的にはデンソーという会社が大型冷凍庫の無償貸与を申し出てくれました。7月1日にお邪魔した時には、博物館の敷地内に誇らしげに設置されていました。

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素晴らしい活動です。主体的に物事を考え判断できる組織を日ごろから実働させ、緊急時にはそれが底知れぬ威力を発揮する。日本のように保存の専門家がいる博物館がほとんどない現状では、少なくとも各県に一か所、それが贅沢と仰る人がいるなら各地方に一か所でもいいですから、博物館に保存修復部門を設置して臨床保存に取り組んでもらいたいものです。岩手県博がそのことの大切さを実証してくれたと思います。

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