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2011年6月11日 (土)

保存という名のひかり(その37 歴博での研究(6))

歴博での研究(6)

歌田眞介先生について始めた明治初期洋画の技術的な調査は、歴博に移ってからも勿論のこと継続していた。東京芸大大学院から創形美術学校、そして歴博と進めてきた研究は10年が経過し、その過程でさまざまな画家についての調査結果を得ることができて、ある程度の全体を見通せる状態にはなっていた。

僕が最も注目したのが、カンバスに塗られた下地塗料に関してであって、イギリス、フランス、イタリア、ドイツなど明治の画家たちが彼らの留学先から持ち帰った作品のカンバスが、それぞれに特徴あるものであることに気付いた。

イギリスは炭酸カルシウムを主成分にもつ石灰質ナンノプランクトンからなる白亜と鉛白、フランス・イタリアは鉛白と炭酸カルシウム、硫酸バリウムなど、国によって特徴を見いだすことができた。石灰質ナンノプランクトンは文字通りプランクトンの化石であり、大きさが数十ミクロン程度のもので、下地の中からそれが見つかった時は、とても興奮した。いわゆる白亜と呼ばれる土は、このプランクトンの化石を大量に含んだ地層から掘り出されるもので、イギリスでは炭酸カルシウムとして使用されたのである。

更にはその後の研究で鉛白にも2種類あって、一つは古くからの製法であるオランダ法で製造されたもの、もう一つは18世紀以降フランスで開発されたフランス法で製造されたものが使用されていいることが、横島文夫さんの研究で分かった。

神庭信幸:初期洋画の技術的変遷(1)-明治初期油彩画の下地組成-、国立歴史民俗博物館研究報告、19集、pp.357-391、1989

神庭信幸、佐藤時幸:明治初期油彩画の下地から見付かった石灰質ナンノプランクトン化石、古文化財之科学、34号、pp.46-51、1989

横島文夫、神庭信幸、坂本稔、坂本一道:19世紀ヨーロッパにおける鉛白の製造法を用いた鉛白の再現と粒子の分析、文化財保存修復学会誌、40号、pp.1-9、1996

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