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2011年6月 1日 (水)

保存という名のひかり(その33 歴博での研究(2))

歴博での研究(2)

展示ケースと保存箱のように、比較的狭い空間の中で相対湿度がどのように変化するのか、さまざまな過去の論文を読みながら考え続けた。それまでの考え方は、展示ケース内の相対湿度(RH)が変化する様子は、外部の温度変化によって、完全密閉と仮定したケース内の相対湿度がどのように変化し、そこに湿度調節剤(humidity buffer)がある場合には変化がどのように緩和されるかというように、単純化され過ぎていた。

しかし実際には、展示ケースの隙間を通じて外部の空気が流入したり、内部の空気が流失したりすることで起こるRH変化も考慮しければ、実際の様子を正確に推定することは難しい。これをケースの空気交換率と言い、交換率が小さい方が回りからの影響を受けにくくなる。つまり、より気密性が高い訳である。

また、外部の温度変化によって、ケース内に置かれた材料の温度も変化し、それと共に材料から水分が放出されたり、逆に材料がケース内の空気に含まれる水分を吸収したりすることも考慮しなければ、正確な変化の予測は難しい。温度が上がれば洗濯物が乾くのは、温度の上昇によって洗濯物からより水分が放出されるからである。ケース内の温度の変化は、それによって材料からの水分の吸放出を促し、それがケース内のRHを変化させる要因にもなる。この現象は梱包ケースのように、パッキングされた内部に空気がほとんどない環境ではより著しく発生する。

そのような視点を持って、ロンドン・ナショナルギャラリーのGarry Thomson氏はすでに1966年には「Thomson,G.,'Relative humidity-variation with temperature in case containing wood', Studies in Conservation, 9(1964),153-169」、1977年には「Thomson, G.: Stabilization of RH in exhibition cases: Hygrometoric half-time,Studies In Conservation, 22(1977), 85-102」の代表的な論文を発表している。

それでは今から自分に何ができるのか、どこに未開拓の領域が残されているのかを考えた結果が、桐箱の内部の環境が安定しているという定性的な表現を、定量的に評価、予測することであった。その結果できあがった論文が「神庭信幸:相対湿度変化に対する収納箱の緩和効果,古文化財の科学,37(1992),36-45」 、及び「Kamba,N.,'Perforemance of wooden storage cases in regulation of relative humidity change',Preprints of the IIC Congress on Preventive Conservation, Ottawa, 1994,181-184」である。

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