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2011年5月31日 (火)

保存という名のひかり(その32 歴博での研究(1))

歴博での研究(1)

歴博では計画的に幾つかの研究課題に取り組んだ。総て自分が望むようにできる研究環境であったから、自己管理さえできれば着々と研究を進めることができた。心の底から研究に没頭することが可能と思える環境であった。今後、研究が必要となると自分が感じたところを、以下の論文に記した。

神庭信幸:展示と保存科学、日本展示学会誌、4号、pp.34-43、1987

解決の必要がある今後の課題としては、相対湿度調節について、1)調湿剤の開発、2)展示ケ-ス内における湿度法の改良、3)保存上許容される相対湿度変動幅の確立、展示照明については,1)展示に適する色温度の決定、2)演色評価法の確立、3)光化学反応による劣化の評価などを上げた。ICCROM(イクロム)から帰り、そこでスタートした天然素材を用いた調湿剤の研究をまとめ、歴博で発表したのが実質的な研究のスタートである。

神庭信幸:天然素材の湿度調節剤への応用、国立歴史民俗博物館研究報告、第12集、pp.139-186、1987 

それ以降、調湿剤と湿度変化に関係するさまざまな現象の説明を試みるための研究に打ち込んだ。木製の保存箱、あるいは展示ケースの中で、相対湿度がどのように変化しているのか、そして保存箱が保存に有効といわれる理由はどこにあるのか、こうした問題の解明に取り組んだ。当時既に東京国立文化財研究所(現独立行政法人文化財研究所東京文化財研究所)の三浦さんが沢山の論文を世に送り出し、ある程度の理解が進んでいた頃のことである。世界中の保存科学者たちが展示ケースの性能について論じていた頃である。

僕は当時の議論が定性的なものであり、その定量化と湿度変化の予測に関する研究が不十分である点に着目した。さらに、文化財の輸送の際に作品を梱包した箱の中の温湿度はどのような状態であるのか、当時の日本では誰も取り組んでいない問題であり、したがって未知の領域が幾つもある手つかずの課題を相手にすることになった。

研究は野村コレクションの小袖をワシントンに輸送したときの梱包ケースから始まった。当時の同僚である丸山伸彦さんに協力頂きながら、飛行機やトラックの詳しい旅程を記録してもらい、梱包ケースの正確な位置の確定を行った。以後、航空輸送、陸上輸送などの特徴とリスクが徐々に明らかになっていった。

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