茅葺屋根の燻煙と筍
5月2日(月)に東博が所蔵する黄林閣(おうりんかく)に出かけ、茅葺屋根保全のために、竈で火を焚き煙を出して、茅を燻煙しました。一昨年の冬から始めて、今回で4回目となる作業です。
前回の燻煙に先立って竈の修理を行い、4連の竈をまともに使えるようにしました。何かのときには、緊急時の炊き出しも行えます。日本一おいしい炊き出しだって夢ではありません。燃やす薪は敷地内の竹林や雑木林、あるいは庭木などから枯れ枝や剪定した枝や竹を集めて用意します。毎回少なくとも4人態勢で作業を行うようにしてきました。もちろん事前に、近くの消防署に趣旨を説明して、了解を得ています。
今年の冬に敷地内の竹林をきれいにしたので、随分と明るくなって見通しが効くようになりました。そんな竹林には今、筍が一杯頭を除かせていました。竹林も適度に世代交代をさせながら奇麗にすれば、茅葺屋根の母屋と一体化した空間として、ますます魅力的になることでしょう。
黄林閣の土間に設えられた囲炉裏は塞いだままですが、何れ自在かぎを用意して、囲炉裏を復活させてみたいものです。それから、土間から見上げると太い梁と茅葺を支える竹が見えますが、それらは美しい造形を見せて、我々に癒しを与えてくれますが、もっといい雰囲気になるように照明を効果的にできたらいいだろうなと思います。障子は昔ながらの段張りの仕方で貼り直して、障子戸の魅力ももっと引き出せたらいいだろうなと、考えます。
茅葺屋根の保全のために出かけていますが、この建物の風格にあった空間に少しでも近づけられるような努力も、合わせて行っていきたいものです。そして、その空間を使っていろんな行事を行いたいと言う人々が少しでも増えてくれることを願っています。
臨床保存の真髄、それは守ろうとする人々と一緒に歩むことです。この黄林閣に親しみ、その魅力を伝えようとする人々を一人でも増やすことです。私たち僅かばかりの保存の専門家だけで守りきれる相手ではありません。
黄林閣がある柳瀬荘は、昭和23年に東京国立博物館に寄贈された松永安左エ門氏(耳庵)の旧別荘で、埼玉県所沢市にあります。荘内には、民家、茶室などが保存されています。中でも「黄林閣」は、江戸時代の民家の特色をよく示す建造物として、重要文化財に指定されている茅葺屋根の屋敷です。最寄りの駅は武蔵野線新座駅。
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