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2011年2月 7日 (月)

保存という名のひかり(その26 創形美術学校修復研究所のころ4)

創形美術学校修復研究所のころ(4)

科学者とし、修理の見習いとして、研究所でやるべきことは多かったが、中でも苦労して発行した修復研究所報告Vol.1は初めての事だらけながら面白い仕事だった。1981年第1巻発行。当時、油絵のことに関して、役に立つデータを公開する修理・保存に関する雑誌は国内では皆無であったと思う。ロンドン・ナショナルギャラリーがテクニカル・ブレティンを発刊して間もないころであったと思う。絵画の科学的な調査研究に関する実践的で最新の成果が知りたくて仕方がない僕にとって、テクニカル・ブレティンは自分のために出版されたかと思うほどに、総てのページに知りたかった内容が溢れんばかりに公開されていた。第1巻から毎巻を購入して、内容を読み漁った。これに匹敵するものを作りたい。いつしかそう思うようになった。

創形美術学校修復研究所に入所して2年、小さな研究所がかかえる大志と、現実にそこに蓄積された貴重な情報は、ナショナルギャラリーが世界的に著名な作品相手に発表する科学データに、決して引けを取らないものであることを確信した僕は、紀要の発行を提案した。これまで、仕事の内容を研究的に捉えて定期的に刊行することは、我々にとって初めての事で、未知の領域である。まさに右も左も分からない中で、当時研究所に入り浸っていた尾崎さんとも相談して、紙面の形式や内容の組み立てを進めて行った。まさに手作りの紀要である。

内容もさることながら、第1巻の表紙を飾る写真を何にするか相当に悩んだ結果、修理を終えたばかりの原田直次郎作「騎龍観音」のクリーニング途中を掲載することにした。油絵のクリーニングは、最も敏感な個所を四角い形に僅かにクリーニングして、まずそれを標準として外の箇所を進めていく。その際にも四角く形を作ってクリーニングを行う。丁度油絵に窓を開けるように進めて行くのである。そのような修理途中の状態が表紙に使われた例はこれまでないのだが、この雑誌は修理を正確に伝え、科学的に検証するための資料として提供するのだという使命に、所員全員の賛同を得た。創形美術学校修復研究所報告vol.1の完成である。

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