« エジプトのインターネットが再開 | トップページ | 保存という名のひかり(その26 創形美術学校修復研究所のころ4) »

2011年2月 6日 (日)

保存という名のひかり(その25 創形美術学校修復研究所のころ3)

創形美術学校修復研究所のころ(3)

多くの作品の調査と修理の機会に恵まれ、絵具のクロスセクションに関する製作技術は相当のレベルと精度に達していた。ただし、研究所には分析機器は光学顕微鏡を除き一切なかったので、絵具の中の顔料分析は化学試薬を滴下して起こる化学反応を見て確認するという、クラシックな手法に留まらざるを得なかった。当時、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置付き走査型電子顕微鏡がクロスセクションの分析で使用され始めたばかりで、何とかその装置で分析ができないものかと歌田さんと話したものだ。

しかしながら、社会の権威を一切否定し、本来国のレベルで行われてしかるべき文化財修理に関する修理カルテの徹底的な蓄積を、弱小な一専門学校が行おうとするのだから、その覚悟は強く、理想は高い。決して簡単には他者の力に依存しないで、出来るだけのことを自らの力で確実に積み重ねる。たとえ物足りない点があったとしても、今できることを徹底して行い最低限の必要事項を記録し続ける。何れ時が満ちれば何かが変わると信じて皆が働いた。そこには嘘はなく、皆が純粋だったと思う。

だから、文化財関係の機関で、類似の装置を保有するところはすでに当時存在していたけれど、頭を下げてそれを使わせてももらうなどということは想像だにできなかった。単に機械を使うだけではなく、お互いが理解しあい、信頼しあえる対等な立場でない限り、協力などというものは存在しないのである。その意味において、真に弱小の組織と付き合ってくれる公的な組織は多くはなかった。

« エジプトのインターネットが再開 | トップページ | 保存という名のひかり(その26 創形美術学校修復研究所のころ4) »

心と体」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

« エジプトのインターネットが再開 | トップページ | 保存という名のひかり(その26 創形美術学校修復研究所のころ4) »

2021年11月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
無料ブログはココログ

気になる1冊

  • ★井川 聡: 『超高層から茅葺へ』
    海鳥社 2012 日本設計の池田武邦さんがハウステンボスの設計にかけた情熱とその源泉について、ドキュメンタリー的に記されている。茅葺に興味があったので手に取ってみたが、ハウステンボスの設計思想とその実態について初めて知ることが多く、ぜひ一度行ってみたくなった。
  • ★ヨースタイン・ゴルデル著 猪苗代永徳訳: 『オレンジガール』
    命のバトンタッチの意味。
  • ★籔内佐斗司: 『壊れた仏像の声を聴く 文化財の保存と修復』
    一緒に仕事をする機会には恵まれませんが、いつも気になっている方が仏像と修理について書き下ろした本です。
  • ★バージニア・リー・バートン 著 まなべ まこと 監修 いしいももこ訳: 『せいめいのれきし』 改訂版
    恐竜研究の第一人者・真鍋真氏が監修した絵本。絵本と言ってもかなり高度な内容です。生命のバトンタッチを分かりやすく描いたもの。
  • ★日本博物館協会 (編集): 『博物館資料取扱いガイドブック-文化財、美術品等梱包・輸送の手引き-』
    美術品梱包輸送技能取得士認定試験の制度が始まって4年が経ちます。認定試験を受ける人のための教科書であるとともに、美術品の展示、輸送に携わる人々にもとても役立つ本です。
  • ★ケヴィン・ヘンクス著 多賀京子訳: 『マリーを守りながら』
    自分にも娘がいるが、少女のころの彼女の気持ちを理解、解りあえることは難しかった。父親と幼い娘の間の気持ちの揺らぎを描いた作品。
  • ★藤沢修平: 『三屋清左衛門残日記』
    60歳で定年後、特任研究員として再雇用された時、これから先の時間を如何に過ごすか想像できなかったとき、ご隠居という言葉を理解しようと思って読んだ本。
  • ★ローズマリ・サトクリフ著 灰島かり訳: 『ケルトの白馬』
    イギリスの山肌に描かれた巨大な白馬の絵。その起源を求めて太古の物語にヒントを得て描かれた本。敵に滅ぼされた部族に生き残ったわずかな人々が新天地に旅立っても、彼らの先祖が馬乗りの名手であったことを地上に永遠に刻み込むために、敵方のために描いた白馬。
  • ★K.M.ベイトン著 山内智恵子訳: 『駆けぬけて、テッサ』
    血統には恵まれてはいるが、視力に問題を抱えたサラブレッド・ピエロとともに、自分の道を懸命に探し続ける少女テッサが苦難を後超えて、グランドナショナルで勝利をつかむ物語。馬の心理描写が素晴らしかった。
  • ★夢枕獏: 『大江戸恐龍伝』
    真友の立原位貫さんが装幀と各巻扉絵を描いています。