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2010年10月 7日 (木)

保存という名のひかり(その19 海外留学8)

海外留学(8)

見回したところ、手元にある研究用機器は温度計、湿度計、電子天秤、ベルジャーと呼ばれる大型ガラス密閉容器ぐらいで、その他にはなさそうである。これらを使って、天然素材が湿度調節をどのように行うのか、その能力を比較する実験を始める訳である。一定の湿度を作るのに必要な化学薬品は購入してもらえるよう、助手の若い女性に頼んだ。ベルジャーに薬品の飽和水溶液を入れると、容器内は一定の相対湿度に安定する。このセットを湿度10%台から90%台まで、ほぼ10%刻みで9セット用意した。

さて、問題は天然素材の選定である。水分を吸放出しやすく、腐ったりかびたりしないしないもの、そして入手しやすく安価なモノをどのように選び出すかである。いろいろと考えた挙句、農産物が良かろうと言うことから米、籾殻、小麦、小麦粉、麦藁、蕎麦殻、乾燥した大豆、木炭など、他にもいろいろと試してみることにした。試験体は、食料品店に出かけて1キロずつ購入、木炭はガエルに頼んで購入、蕎麦殻は日本の叔母から送ってもらったり、あの手この手で20種程度の試験体を掻き集めた。

試験体を熱して乾燥重量を求めたのちに、10%台のベルジャーに3日間置いて馴染ませ、容器から出してすぐに重量を測定する。これを90%台まで続けると1ヶ月ほどかかる。今度は逆方向に10%台まで続けて1ヶ月。各湿度帯に用意できるベルジャーは1個しかないので、その中に入れられる試験体にも限りがあるため、10%台から90%台の間の往復は結果的に3往復ぐらい行うことになった。それだけで6ヶ月。この測定は試験体の平衡含水率を得るためのもので、湿度帯を低い方から高い方に、またその逆を図るのは、両者のたどる道筋が異なるためで、これをヒステリシスと言う。

8か月の滞在期間に6ヶ月の実験では、まとめも何もあったものではないが、毎日コツコツと仕事を進める外はなかった。ある湿度帯に馴染ませるまでの時間3日は比較的自由であるので、ローマ市内や1泊程度の近距離を巡り歩くことができた。また、イクロムの最上階にある図書室に通って、日本で入手が困難であった論文とかを読むことができた。

そうこうするうちに、ローマ到着後1、2ヶ月が経過したころだっただろうか。急に街並みが美しいと感じるようになった。フォロ・ロマーノの古代遺跡のみならず、ローマの街全体が美しくて、美しくて仕方がないのである。これまで汚れとしか見えていなかったものが、古色(パティナ)として自分の目に映るように変わったのであろう。当時の自分にとって、ローマとはそれほど文化的ギャップがあったのだ。以来、ローマは最愛の古都である。

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