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2010年8月19日 (木)

茅葺屋根の管理は昔ながらの竈の煙で①

柳瀬荘は、昭和23年に東京国立博物館に寄贈された松永安左エ門氏(耳庵)の旧別荘で、埼玉県所沢市にあります。荘内には、民家、茶室などが保存されています。

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中でも「黄林閣(おうりんかく)」は、江戸時代の民家の特色をよく示す建造物として、重要文化財に指定されている茅葺屋根の屋敷です。元は今の東京都東久留米市にあった、旧名主・村野家の住宅を松永氏が当地に移築したものです。

茅葺屋根はほっておくと、茅の中に虫が巣くって茅を傷めるだけではなく、その虫を狙って烏が上からつついて、茅を散らかしていきます。そのままにしておくと、次第に雨漏りがして、最後には柱や壁を腐らせてしまいます。

どうして、こんなにもろい屋根がふるくから日本の民家の屋根として持ちいれられ、長く持ちこたえられたかというと、屋内で家事炊事のために竈で焚く薪の煙が、天井に上って、屋根の内側をひごろから燻煙していたからに他ならないのです。煙の中にはアルデヒド類や有機酸などといった、生物にとって嬉しくない殺虫・殺菌成分が含まれています。

囲炉裏や竈から立ち上る煙は、自然に茅葺の屋根を燻蒸して、虫や黴を駆除していた訳です。ところが、現代ではそのような生活習慣が絶えて久しく、茅葺屋根を維持する能力や機能が日常生活の中には存在しません。ですから、ほっておけば屋根はどんどん傷むばかりです。

傷んだ屋根を葺き替えるとなると何千万円もの経費が必要になります。ならば殺虫業者に定期的に化学薬品による燻蒸を頼むとなると、これも1回で数百万円はかかります。つまり、日常管理をしない分、それを莫大な経費で補うことになると考えてもいいと思います。

黄林閣の屋根もかなり傷みました。そのため数年前に傷みが特にひどい半分だけは茅を取り替ざるをえませんでした。博物館を弁護すれば、勿論、日常管理を放棄しているのではありません。清掃や草取り、樹木の剪定、建物の小規模修繕は可能な限り行っていますが、屋根に対する予防的な管理の側面が欠如しているわけです。予防的管理とは虫やカビを発生させないように事前に処置することですが、それには毎回化学薬品で燻蒸するよりは、昔ながらに竈から煙を出して、屋根裏を燻すことがおそらく最も効果的で、エネルギーと経費の節約にもつながると思います。

私たちは茅葺屋根の保存のために、昨年から竈を復活させて、定期的に煙で屋根裏を燻す実験を開始しました。

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コメント

茅葺屋根のこと興味深く読ませていただきました。教えていただきたいことがあります。約一年前、茅葺き屋根の通常の管理ができなくなって亜鉛鋼板で被覆しました。この場合、燻煙の継続は必要なものでしょうか?被覆した古民家を残ってると思われる虫などの駆除を目的に一年間ほど定期的に囲炉裏で薪を焚き燻煙してみましたが、そもそも、被覆した場合、燻煙の必要性もないかと思っています。御指導ください。

茅の中に生息する虫は屋外側と屋内側から侵入する可能性があります。今回屋外側が亜鉛板で覆われたことによって、屋外側からの侵入は小さくなると思います。一方、屋内側は生活空間ですから虫の侵入の可能性は依然としてあるわけです。亜鉛板設置後も一年間燻煙を継続されたとのことですので、虫の生息の可能性はかなり小さくなっていると考えていいと思います。茅のもちをよくするため、そして万が一生息している虫がいないとも限りませんから、年に一度程度は楽しみとして燻煙を続けてみてはいかがでしょうか。屋根裏に茅があることを意識し続けることが大切だと思います。

実は訳あって、川口のある建物に、住んでいます。1階は約35坪のコンクリート土間で、2階は10畳が4部屋です。ここに住んで半年になります。
驚くべきは1階です。以前は弁当の仕出しに使われていたようです。ここが阿鼻驚嘆。最初はゴキブリ天国で、左足を1歩出すと、ザザザザザー。さらに右足を1歩出すとザザザザザー。ゴキブリの大群が動きます。時にはプチプチ嫌とな音もします。
度重なる、バルサン攻撃。ホウ酸団子攻撃。しかし、敵もさるものどこかに潜んでいる。時折姿を見せる。この野郎。最終兵器と思われる消火器を5本の発射に至った。ついぞ敵はいなくなった。ところが、消火器の粉末の匂いでやられそうになった。水で洗い流そうにも限度があった。
ここで、深呼吸など夢のまた夢。変わったのは、ペール缶にあなをあけ、薪を燃し始めてからだ。煙は上から積もる。重なる薪煙で敵も匂いも消えた。薪煙は空中の浄化作用があると確信する。ぜひ、見に来ていただきたい。
咳き込んでいた、2階の部屋に一度、ペール缶を入れた。咳き込まなくなった。
薪煙には、空中の浮遊物を吸着、きれいにする何かがあると確信する。空気清浄機を用いるより、爽やかさを感じる。薪煙はウイルスさえも吸着する力があるのではとさえ思える。
囲炉裏は病からさえ、人を守ってきたのではあるまいか。

コメントありがとうございます。薪の煙による燻(いぶし)、燻蒸効果はやはりすごいですね。そのことを共有できて嬉しく思います。長年人類が使い続けてきた者ですから、何かしらの効果はあるはずですよね。人間にとって役に立たない方法ならとっくの昔に淘汰されて、地上から忘れ去られているはずですから。煙の中にはアルデヒド類や酢酸などの酸が含まれていて、蛋白質と反応します。人間の目が痛くなるのもその反応の一つです。虫も蛋白質で出来れいますから、大いに影響を受けると思います。ウイルスなどもきっと影響を受けるでしょうね。

>ババタツさん
>
>実は訳あって、川口のある建物に、住んでいます。1階は約35坪のコンクリート土間で、2階は10畳が4部屋です。ここに住んで半年になります。
>驚くべきは1階です。以前は弁当の仕出しに使われていたようです。ここが阿鼻驚嘆。最初はゴキブリ天国で、左足を1歩出すと、ザザザザザー。さらに右足を1歩出すとザザザザザー。ゴキブリの大群が動きます。時にはプチプチ嫌とな音もします。
>度重なる、バルサン攻撃。ホウ酸団子攻撃。しかし、敵もさるものどこかに潜んでいる。時折姿を見せる。この野郎。最終兵器と思われる消火器を5本の発射に至った。ついぞ敵はいなくなった。ところが、消火器の粉末の匂いでやられそうになった。水で洗い流そうにも限度があった。
>ここで、深呼吸など夢のまた夢。変わったのは、ペール缶にあなをあけ、薪を燃し始めてからだ。煙は上から積もる。重なる薪煙で敵も匂いも消えた。薪煙は空中の浄化作用があると確信する。ぜひ、見に来ていただきたい。
>咳き込んでいた、2階の部屋に一度、ペール缶を入れた。咳き込まなくなった。
>薪煙には、空中の浮遊物を吸着、きれいにする何かがあると確信する。空気清浄機を用いるより、爽やかさを感じる。薪煙はウイルスさえも吸着する力があるのではとさえ思える。
>囲炉裏は病からさえ、人を守ってきたのではあるまいか。
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