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2010年6月27日 (日)

保存という名のひかり(その8 国立歴史民俗博物館のこと1)

国立歴史民俗博物館のこと(1)

 1995年当時、僕が勤めていた歴博は、1983年10月に開館したばかりの新設の博物館で、歴史学者の井上光貞さんが練り上げたビジョンに基づいて、100年事業と言う途轍もないスケールで、日本列島の歴史に関する展示と関連資料の集積、そして歴史学、考古学、民俗学の連携による我が国の総合的な歴史研究をスタートさせたばかりで、10年ほど経過した若々しい博物館であった。大学共同利用機関という聞きなれない組織で、館外の研究者と共同で研究を進める新しい学問探求の場であった。そこは国立大学と同じ特別会計の枠組みにあり、かつ実験講座に相当する組織であるために、文化系の研究組織としては異例の研究費の多さで、駆け出しの研究者でも年間の研究経費は100万円程度は確実、調査旅費に30万円近くが用意されていた。さらに、自然科学分野の研究者には、高額の分析機器を購入する自前予算があった。同じ博物館でも、研究費がほとんどない文化庁所管の国立博物館とは比較にならないほどに、恵まれた研究環境であった。

 実は、歴博は元々文化庁の方に属する国立博物館として計画され建設が進んだが、途中で井上初代館長の決断により特別会計の国立大学共同利用機関に舵を切った。博物館で同じ大学共同利用機関には、大阪の万博跡地に建てられた国立民族学博物館が梅竿忠夫館長の下、旺盛な研究活動と目覚ましい成果を世に示し始めていた時期であり、井上さんは民博の様子を強く意識し、学問を行うには文化庁管轄よりも文部省の大学の方がやりやすいと考えられたのであろう。その決断が潤沢な研究費をもたらすことになるわけですが、そのため開設の準備を進めてきた文化庁にとっては博物館が丸ごと持って行かれてしまうという、誠に残念というか、煮え湯を飲まされるというか、とんでもない方向転換となったわけで、以後歴博に対する文化庁の態度は長く冷ややかなものであったようだ。

 その影響は間接的ながら自分自身の研究にも影響をもたらすことになる。

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