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2010年6月11日 (金)

保存という名のひかり(その6 阪神淡路大震災3)

阪神淡路大震災(3)

 その後何度か館長さんとお会いし、あるとき初めて実姉を亡くされたこと、片方の目が義眼であることなどを教えていただき、その強靱な精神力に言葉を失った。それと共に、北淡町から明石に渡るフェリーの船着き場には、後部座席に古美術を山と積んだ高級外車が沢山駐車していたという話も聞かせていただいた。倒壊した蔵には雨風を避けるため屋根にブルーシートがかけてあるので、それを目印にすれば蔵に辿り着くのは容易である。この際、骨董品を金に替えて身軽になろうとする人が多いためか、大地震の被災地には古美術商が集まるらしい。これが家族や地域を特徴付けてきた文化財の流出を一挙に加速することになる。

 何度もお邪魔して、館長さんとすっかり打ち解け合うようになると、帰りがけに焼き穴子をどっさりとお土産と言って用意して下さる。申し訳けないと思いつつ、美味しく頂いた。北淡町やその周辺の地域で坂本さんのチームに加わって行った活動の一つに廃棄されていく民具のレスキューがある。全半壊した農家を一軒ずつ訪ねて、家の片隅に押し込んであった木製の農機具などを譲り受け、近くの公民館で保護するのである。色々な物が集まってくると、住民の方々もこんな物がまだ残っていたか、懐かしい記憶を呼び覚ますとか、とにかく珍しがって感心しておられたのを思い出す。自宅では無用の長物でも、外に出して他の物と一緒に並べるとそれはそれで立派な歴史を語る文化財に変身することを皆が理解した。

 心が痛む現場で、無力感に苛まれる毎日ではあるが、夜は民宿でいただく夕食が束の間の休息である。3月ころはイサキの季節で、穫れたての新鮮なやつを丸ごと釜に入れて炊きあげたイサキご飯の味は忘れられない。宿の親父さんが東京の田舎ものには食わせたくないが、今晩はご馳走しようと食べさせてくれた。以来、イサキは3月、淡路島と私の頭にしっかりと記憶された。

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